趾皮膚炎のサイクルを遮断する
オルトゥロ・ゴメス博士、獣医師
ジンプロコーポレーション
有毛イボとも呼ばれる趾皮膚炎(DD)は、酪農場および肉牛農場で見られる感染性の蹄病です。アメリカにおいては、全酪農場軒数の70%以上で感染が確認されており、500頭以上を飼養する大規模牧場の95%で感染牛が存在すると報告されています。肉牛業界における感染状況や拡大は今のところ不明ですが、問題視され始めてきています。農場に趾皮膚炎が入り込むと、直ぐに蔓延していきます。罹患牛が跛行を示す場合もあり、乳牛では乳量の減少と健康的な繁殖活動(受胎性)を脅かすことになります。肉牛においても、正常に出荷できなかった非生産牛の70%で跛行が確認されています。
管理と予防、微量ミネラルの役割
子牛から育成牛、泌乳牛から乾乳牛に到るまで全ての生産ステージで、趾皮膚炎をコントロールし危険要因を管理するための以下の総合的な予防戦略を検討しなければなりません:
管理
- 農場に感染牛を入れないようにするための防疫指針に従う。
- 定期的に趾皮膚炎ペンウォーク(牛が飼槽などで保定されている状態で、1頭1頭が趾皮膚炎に罹患していないか観察する手法)を行って、後肢を観察する。
- 罹患履歴を元に管理判断を下すために、個体毎に病変の記録をつける。
- M2病変を早期に発見し、適切に治療する。
衛生
- 清潔で乾燥した環境を常に心がける。必要に応じて蹄浴を行う。
栄養
- 育成牛や若齢牛も忘れることなく、全ての生産(成長)ステージに対して、趾皮膚炎を予防するための栄養素の役割を理解する。
- 微量要素も含め、栄養素が十分に満たされている飼料を設計する
適切な飼料設計を行っている飼料に、特定処方の趾皮膚炎対策プレミックスの一部としてジンプロ社のアベイラプラスを混合することで、非泌乳牛の趾皮膚炎の罹患率と重症度が著しく低下することが研究から判明している。
趾皮膚炎の識別と、疾患の進行
趾皮膚炎をコントロール下に置くためには、感染の有無と重症度合いの見極めをどの様に学ぶのかが鍵になります。農場に一度趾皮膚炎が入り込めば、急速に感染が拡大し、罹患率が70%を超えることも珍しくありません。趾皮膚炎は、研究初期において、5つのステージに分かれるとされました(Döpfer et al., 1997)。趾皮膚炎の病変の見た目と、疾患の進行について解説します。
M0 – 健康な蹄
疾患のステージ:正常な趾間部位の皮膚、皮膚炎の兆候なし。
進行: M0からM1に進行する一般的な原因は衛生状態の不良、防疫の不備、ぬかるんだ環境である。
M1 – 初期/無症状
疾患のステージ: 小さく(直径2cm以下)限局的な赤色あるいは灰色の上皮の損傷。趾間部位に発生する場合がある。趾皮膚炎の急性段階、または中間ステージの慢性のM4病変にも、症状が現れる場合もある。
進行: M1病変はM2に進行するか、M0に戻る。M1からM2へ症状が進行することがない牛も存在する。
M2 – 疼痛あり/急性の潰瘍
疾患のステージ: 鮮やかな赤色の進行性の潰瘍、または赤から灰色の肉芽腫性の皮膚病変。直径2 cm以上。一般的に、皮膚/角質境界部の蹄冠部周辺や、副蹄付近、及び蹄壁の亀裂部位で見られ、時に蹄底の損傷部位でも発生する。
進行: 効果的な治療が行われれば、治癒ステージ(M3)に移行。M2、M4、M4.1の間で、症状のサイクルが出来上がる場合がある。M2病変を持つ牛が集まることで、牛群内で蔓延し始める。
M3 – 治癒
疾患のステージ: M2病変に局所的な抗生物質治療を行った後、1~2日以内に患部表面が硬いかさぶたの様に変化。局所的治療を施した後、痛みが消えるのが理想的。
進行: 皮膚の状態がM0に戻る場合もあるが、M2へと逆行するか、慢性のM4病変に進行する可能性もある。
M4 – 慢性/有毛イボ
疾患のステージ: 急速に過角化(表皮の肥厚化:図左)するか、繊維状、鱗状、または塊状に大量増殖した状態で、一般的に「有毛イボ」と呼ばれる(図右)。
進行: 皮膚内の深部に嚢胞形成した細菌が存在しており、疾病の再発の危険性がある。従って、M0に戻るか、M4.1病変に進行する。
M4.1 – 慢性的な再発
疾患のステージ:過角化状態の慢性のM4病変部に、M1病変が存在(図左)、もしくは、慢性のM4病変の周辺部に、初期または中期のM1病変が存在(図右)。
進行:皮膚内の深部に嚢胞形成した細菌が存在しており、疾病の再発の危険性がある。従って、M4に戻るか、M2病変を形成する。
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注記: 本稿はウィスコンシン大学獣医学部のドルテ・ドッファー博士のご協力のもと、執筆致しました。