ウイルスとは何か?そして動物生産にどのような影響を与えるのか?
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ウイルスとは何か?そして動物生産にどのような影響を与えるのか?

クリス・アシュワース博士、獣医師

ジンプロコーポレーション

動物生産におけるウイルスの影響シリーズ:第1号

ウイルスは世界中で動物生産に大きな影響を与えています。ウイルスは、腸や肺、肝臓、腎臓、子宮、卵巣、脊椎、脳、皮膚といった体内のあらゆる組織に影響を及ぼします。

動物がウイルスに感染すると、成長や生産性、繁殖能力に悪影響が生じ、死に至ることさえあります。インフルエンザウイルスや伝染性気管支炎ウイルス、牛RSウイルスなどの有害なウイルスを制御することは、健康で高い生産性の動物を飼育するために重要です。まず始めに私たちはウイルスとは何か?そして動物にどのような影響を与えるのか?を理解しておく必要があります。

ウイルスとは、生物の生細胞内のみで複製し、宿主の外では長期間生存または繁殖できない超微小の病原体です。ウイルスは、世界中の植物や動物、昆虫そして環境中に存在しており、動物とその体の正常な機能や構造に問題を引き起こすことがあります。

ワクチンやバイオセキュリティー強化、抗ウイルス剤によるウイルス制御と十分量の亜鉛の給与を行うことは、動物の寿命を伸ばし、生産性や成績、繁殖能力を改善させることに役立ちます。

 

ウイルスは動物内でどのように作用するのか?

ウイルスの核酸は、一本鎖または二重螺旋構造をしており、それぞれRNAウイルスとDNAウイルスに分類され、カプシド(殻)またはエンベロープ(外膜)によって守られています。ウイルスは、経口感染や空気感染、皮膚を介して、また交配時に生殖器を介しても体内に侵入します。

一度、動物がウイルスに感染すると、ウイルスは、その遺伝物質を動物の健康な細胞内に組み込み、その細胞に大量のウイルスを複製させます。そして、複製されたウイルスが放出され、他の動物や稀に世話をしている人間にまで蔓延してしまいます。

長年ウイルスは、疾病の病原体であると認知されていましたが、中にはすぐには疾病を引き起こさないウイルスも存在します。それらは、ストレスがかかるまで動物の細胞内で休眠しています。そのストレスには、輸送ストレスや暑熱ストレス、高飼養密度によるストレスなどがあります。ストレスによって、ウイルスが休眠状態から活性化し、臨床疾病を引き起こし始めることがあります。

ウイルスによって時には死に至ることがありますが、大半のウイルス感染は動物の死に直接繋がるものではありません。その代わりに、ウイルスは免疫システムの弱体化を引き起こし、それにより病原細菌が動物体内に侵入し、細菌感染症により死に至ることがあります。この現象は肥育牛においてとてもよく見られます。

 

コロナウイルスとは?

一般的に、全ての動物種において、呼吸器系または腸管にコロナウイルスはみられ、それらに感染します。コロナウイルスは動物においてかなり一般的なウイルスです。例えば、牛には、牛コロナウイルスがあり呼吸器疾患を引き起こします。また鶏では、鶏伝染性気管支炎ウイルス(IBV)がコロナウイルスに分類されます。ブタ流行性下痢ウイルス(PED)もコロナウイルスで若齢豚に影響を及ぼします。そして猫や犬といった伴侶動物でも、猫伝染性腹膜炎や特定の呼吸器疾患に感染することがあります。これらの家畜に影響を及ぼすコロナウイルスは、COVID-19、SARS 、MERSといった人間に影響を及ぼすものとは異なります。家畜に影響を及ぼすコロナウイルスが、人間に感染し疾病を引き起こしたり、人間に影響を及ぼすコロナウイルスが動物に感染したりする可能性は極めて低いです。

 

動物のウイルスにおける課題

最も大きな課題は、ウイルスの大きさが300nm以下の超微小であることです。そしてこれは、ウイルスが簡単にエアロゾルになることができることを意味しています。ウイルスは、特に密閉空間内で、空気中を浮遊し、容易に拡散することができます。従って、飼養密度が高くなればなるほど、動物間でウイルスがより拡散しやすくなります。

例えば、イギリスとフランスで発生した多くの偶蹄類に影響を与える口蹄疫は、イギリス海峡を風によって越えて蔓延したと考えられています。

ウイルスは風によって移動することができる一方で、その他にも宿主の体内で生き延びることで移動する方法があります。例えば、馬脳炎(西部、東部)を引き起こすウイルスは蚊や鳥によって運ばれ、保持され拡散されます。更に、コウモリは、臨床症状を示すことなく狂犬病やインフルエンザ、コロナウイルスを媒介すると知られています。

ウイルスに関して、動物生産現場で目の当たりにするもう一つの課題が、ウイルスの突然変異する能力です。動物が特定のウイルスに対する免疫能力を獲得していくと、ウイルスは突然変異し、変化してしまいます。つまり、ウイルスの感染力が強まったり弱まったり、または毒素が強まったり弱まったりし、場合によっては人を含む他の動物種にも感染することがあります。このことは、鶏や豚インフルエンザウイルスにおいて常に大きな脅威となっています。

ウイルスが新しい動物種に対して適応し始めると、ウイルスは強い病原性を獲得します。新たな動物種の異なる個体に伝播すると、ウイルスは適応を始めます。ウイルスが、新しい宿主と友好関係を築くまでには時間がかかります。それ故、大規模な流行が起こり、現在のようなパンデミックが起こっているのです。そしてそれは、ウイルスが適応しつつあるからなのです。

 

動物におけるウイルス管理

世界中で主に高い飼養密度により、ウイルス感染が蔓延しやすい飼養システムが構築されてきました。結果として、生産現場では飼養密度を下げることで蔓延を抑えなくてはいけません。多くの養鶏生産現場では、業界として抗生物質非使用の方向に進んでいるため、飼養密度を下げることがすでに行われています。ですので、各鶏舎の羽数は以前より少なくなっています。

ウイルスの蔓延を抑える他の方法が、抗ウイルス剤とワクチンの使用です。インフルエンザやニューカッスル病、マレック病といった多くのウイルス感染症は、現場で利用できる有効なワクチンがすでに存在します。しかし、抗ウイルス剤開発は多くの場合莫大な費用がかかる一方で、ワクチン開発には時間と研究と技術が必要です。それ故、動物をウイルス感染から防ぐための最善策は、物理的なバイオセキュリティーを強化して、できる限りウイルスを動物に近づけないようにすることです。

バイオセキュリティーを強化する方法は以下の通りです。

  • 飼育場と飼料置き場を分ける。
  • 農場に出入りする車を消毒する。また、特に齢が異なる鶏や豚においては、農場間で機材の移動はしない。
  • 各施設に出入りする前にシャワーを浴び、衣類を着替える。
  • 畜舎で作業を行う際は、防護マスクとヘアカバー、手袋を着用し、畜舎間を移動する時は毎回必ず手を洗う。
  • 配送トラックは消毒し、運転手は車内に留まるか同様に消毒する。
  • ウイルスが死滅する10日以上の長いダウンタイムと、施設を洗浄消毒するための十分な時間を確保する。

大きな群に動物を導入する前に隔離することは、群に疾病を持ち込む可能性を減らすための非常に有効な方法です。新しい牛を農場に導入する際は、21日間隔離するべきです。例えば牛においては、BVDウイルスは持続感染していない肉牛や乳牛で18日以上は体内で生存できます。

バイオセキュリテーに加えて、動物がしっかりとした免疫システムを確実に獲得しておくことも重要です。動物に十分量のタンパク質とエネルギーを摂取させ、良好な体調を維持させてください。動物のミネラルとビタミン状態が優れていることも、白血球の機能を向上させるために重要です。また最後に、消化管内を通して多くの細菌や病原ウイルスを摂取することを防ぐためにも、清潔な飲用水を確保することも必要です。

第2号では、免疫システムがどのように動物のウイルス感染に対して反応するかをご紹介します。また第3号では、ウイルスから動物を守るために必要不可欠な微量ミネラルの役割をご紹介します。

 

第2号
免疫システムがどのように動物を守るのか

第3号
微量ミネラルはウイルスの複製を防ぎ、感染に対しての免疫反応を高める

最終号
ジンプロ・ミネラルは免疫機能を向上させる