銅:乳用牛の栄養素として必要以上に給与している?
乳用牛の栄養学において銅添加を考えた時、最初に農場において生産性向上のために必要な要求量に見合った給与が行われているかをご確認ください。そして同時に、肝臓の銅蓄積が過剰になるほど大量の添加を行っていないかどうかにも注意が必要です。
銅は下記に挙げられるような乳用牛の様々な代謝機能と構造機能において、重要な構成因子です:
- メラニン色素の形成
- ATPの産生
- 鉄の吸収と代謝
- 赤血球の成熟
- 免疫機能
- ジスルフィド結合とケラチンタンパク質
- コラーゲンの形成
しかし過剰給与によって、銅は毒になる場合もあります。大幅な過剰給与によって、肝臓に銅が高濃度で蓄積します。平時では牛はその兆候を示すことはないかもしれません。しかし、一度肝臓の異化作用が進行するようなストレスに晒されることがきっかけとなって、莫大な量の銅が血中に放出される(溶血発症)と、次のような問題が起こり得ます:
- 重度の溶血:赤血球細胞が破裂してヘモグロビンが血中に放出されてしまい、体内の酸素量が低下する。
- 黄疸:血中のビリルビン色素の量が過剰になることで発生する。
- 広範囲に亘る壊死:血液が供給されないことによる、臓器や組織のほとんどもしくは全ての細胞が死滅する。
- 斃死。
肝臓サンプルを観察したいくつかの研究から、銅の添加量を中程度増やしただけでも問題を引き起こす可能性があることが示唆されています。
従って、現在農場でどの程度の銅を給与しているかを確認することが重要になっています。
銅の体内蓄積量を求める
銅の体内蓄積量を調べるためには、肝臓組織を用いることが理想的であるとされています。飼料由来の銅による長期的な体内活用を、肝臓片が最も反映しています(ハーツとホフ、2011)。銅は肝臓中でメタロチオネインと結合しています。これは重要なことで、メタロチオネインと結合していない遊離した銅が過剰になると、肝臓の脂質膜を破壊します。また、銅は酸化促進物質でもあります。
乳牛における肝臓中の銅濃度は、乾重量ベースで75〜300ppmが充足値とされています(パルス、1994)。過去には乾燥重量で750ppmを超えるまでは、銅の過剰蓄積による問題は起きないとされていました。しかし現在では、乾燥重量で銅濃度が500ppmを超えた場合には飼料中の銅添加量を見直すべきであるとする科学的根拠があります。
ライマンらによる2015年の発表によると、廃用牛の淘汰時の肝臓中銅濃度は平均で約500ppmであり、多くの肝臓片で脂質膜が過酸化している兆候が見られたとのことです。シェファーズは、肝臓中銅濃度が450ppmを超えると、肝臓の損傷を示す酵素濃度がどのように血中で上昇するかについて、2015年に解説しています。
ジンプロ社が2000年から2017年の間に健康な泌乳中期の乳牛の肝臓片をランダムに収集し銅濃度を調べたところ、これらの牛はちょうど問題が起こるボーダーライン上にいることが分かりました。言い換えると、ボーダーラインよりも高い濃度の牛も多く存在しているということです。
肝臓での過剰な銅蓄積の潜在的な原因
肝臓での過剰な銅蓄積を引き起こす原因は複数考えられます。牛における銅の維持要求量と妊娠要求量が、要求量を決める主要因であり、乳生産量(泌乳維持量)はそれほど関係ありません。しかし、今日の乳牛は乳生産量の高まりによって、過去に比べてより多くの飼料を摂取しています。飼料中の銅濃度を20ppmと仮定すると、乾物摂取量27kgの牛は23kgの牛と比べて、1日に80mgも多く銅を摂取しています。これは大きな量には見えないかもしれませんが、牛の生涯摂取量を考えると非常に大きな違いとなります。さらに飼料摂取量が多くなれば、飼料の消化管内の通過スピードも早まります。即ち銅が拮抗物質(モリブデンと硫黄)に晒される時間も短くなるので、銅の吸収量が増える原因になっている可能性があります。
泌乳牛が2泌乳期に亘って12〜15ppmの銅の添加を受けたところ、肝臓中の銅濃度は乾重量で約230ppm増加しました(ノセックら、2006)。わざと飼料への銅添加をなくす以外で、牛の一生において肝臓中の銅が減少する可能性のある唯一のタイミングは、乾乳期です。これは、胎児の発達のために要求量が高まることと、泌乳期に比べて乾乳期は最大で50%乾物摂取量が減少するという2つの事象の組み合わせで発生していると考えられます。しかし、分娩後すぐに肝臓への銅蓄積は再開され、前泌乳期で維持されていた濃度を超えることも珍しくありません。
その他に過剰な銅蓄積の原因として考えられるのは、飼料設計時にミネラルの実測値ではなく参考値を用いていることです。微量ミネラル濃度は農場の状況によって大きく変動するので、参考値を用いて飼料設計を行うことは堅く否定されています。例えば土壌中のミネラル濃度や土壌pH、地理的要因、収穫時の土壌混入、粗飼料の種類などによっても、微量ミネラル濃度は変動します。マメ科牧草はイネ科牧草に比べて、銅の蓄積濃度が高いことが分かっています。土壌からの銅の吸収感度は草種によって異なることにご注意ください。
農場での蹄浴に硫酸銅を用いることも、粗飼料中の銅濃度を高める原因になっている可能性があります。1,000頭規模の農場で蹄浴を週に3回、5%濃度の硫酸銅水溶液を用いて行った場合、1年間で2トンの銅を糞尿と一緒に処理して、土壌に撒布している計算になります。牛舎から最も近い圃場に多めに糞尿を撒布する場合も珍しくありませんので、自給飼料中の銅濃度はしっかりと考慮しなければなりません。
銅蓄積は牛の一生に亘って起きるものですが、この問題は高齢牛でのみ懸念されるものではありません。ケンドールらによる2015年の観察では、2歳齢以上(2〜15歳)の淘汰牛における肝臓中の銅濃度に差異がありませんでした。ゴメスらも2014年に、体重136〜272kgのホルスタイン種去勢オス牛の肝臓中銅濃度が乾燥重量で500ppmを超えていたことを発見しています。ライマンは2013年に、250kg以下の育成牛及び4ヶ月齢以下の去勢オス牛が示した銅中毒兆候についてのケーススタディを発表しました。銅の蓄積は母牛の子宮にいるころから始まっている可能性があることをグラハムらは1994年に示唆しており、彼らの研究では、母牛と胎児の肝臓中銅濃度の近似性について述べています。さらにいくつかの野外調査では、ホルスタイン種の新生子牛で出生時の肝臓中銅濃度を調べたところ、乾燥重量で500ppmを超えているものも見られました。
牛の銅要求量に合わせた給与
微量ミネラル給与を検討する時、多くの場合ホルスタイン種の乳牛及び育成牛の1日の銅添加量は8〜10ppmとされています。この際、1日の総銅摂取量は400mg以下にするよう注意が必要です。無機銅であろうと有機銅であろうと、1日に400mg以上の銅を給与すると肝臓中銅濃度が乾燥重量で450ppmを超えてしまう可能性があることが、弊社の研究で判明しています(ケロッグら、2003。ファーガソンら、2004。ノセックら、2006。バランタインら、2002。グリフィスら、2007。シチリアーノ-ジョーンズら、2008。ハックバートら、2010)。
ジャージー牛はさらに肝臓中に銅を蓄積しやすいとされているため(デューら、1996)、銅の添加量は6〜8ppmに留めるか、飼料中の総銅量を1日最大300mgに抑えましょう。
最後に、飼料に添加する銅の内3.5〜5.0ppmは、ストレスや拮抗物質の影響を受け難い供給源で給与することをお奨めします。銅をアミノ酸と1体1結合させているアベイラ銅をストレスがかかった乳用牛に給与することで、硫酸銅を給与した場合と比べて体内残存割合が高かったという研究があります。この結果は、アベイラ銅を給与することで、代謝活動が改善されることを示しています。
乳用牛に正確な量の銅を含有した飼料設計を行うために、少なくとも年に1度は水質検査を行って、鉄や硫黄といった潜在的な拮抗物質の影響がないか確認することをお奨めします。ここまでして初めて、参考値ではなく、個々の農場に合った微量ミネラル分析値を伴った飼料原料ライブラリーを基に、飼料設計を行うことができます。その農場及び地域の基礎的な銅濃度と拮抗物質濃度について、信頼のおける基準値を持つことが大切です。飼料中のモリブデンと硫黄濃度が高い場合には、先述の銅推奨量は当てはまりません。特に硫黄濃度が0.3%以上である場合、銅:モリブデン比率を4:1に維持するように設計するのが、1つの目安です。下記の表にあるように、硫黄濃度が0.2%程度である場合、上記の比率はあまり気にする必要はありません。もしモリブデンも硫黄も多い場合はチオモリブデンが形成されやすいので、ルーメン活用型の銅を給与してチオモリブデンの吸収を抑えることをご検討ください。吸収されたチオモリブデンは吸収された銅を代謝に用いることを阻害します。
数々の生体機能にとって、銅は必須の栄養素です。しかし、多給することでそのメリットを打ち消してしまう可能性があります。飼料摂取量が増えていることと、飼料中の基礎飼料由来の銅濃度が高まっていることにご注意ください。肝臓組織に銅が過剰に蓄積する可能性を考えながら、飼料中の銅濃度を適正に添加を行いながら調整してください。
乳用牛における適切な銅給与についてと、飼料設計中にアベイラ銅を組み込む方法の詳細については、弊社営業担当にご連絡ください。
*本記事は2021年時点の情報です。
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