移行期牛の淘汰: あなたが選択権を握っていますか?
ミゲル・モラレス博士、獣医師
ジンプロコーポレーション
乳牛の一生には、農場から去り若い初産牛と入れ替えられる日が必ず訪れます。しかし、それはどのようにして決定されているでしょうか?同じ淘汰でも、自主的淘汰と非自主的淘汰では異なります。
自主的淘汰とは、生産者が計画的に淘汰する牛を決定することを指します。多くの場合、潜在的な収益性が高く、遺伝的に優れた育成牛が農場に存在し、その牛を既存の遺伝的な能力の劣る、または生産ピークを超えて下降線を辿り始めた泌乳牛と入れ替えることです。
非自主的淘汰とは、重度の感染性疾患や代謝障害に陥ってしまった牛や、死んでしまった牛を除籍することです。これらの疾患に罹患し、予後を見込めない場合、生産者はその牛を市場に肉用として出荷することもあります。この廃用決定は非自主的淘汰の一例ですが、農場にとっては、出荷した牛に対して投資した額のいくらかを取り戻すことができる可能性があります。しかし、売却前に牛が死亡してしまった場合、肉用として販売ができないまま斃獣処理をしなければなりません。
乳牛にとって最も疾病罹患や斃死する危険性が大きいのは、分娩前後の移行期です。このステージでは、非自主的淘汰が増加します。全体的に見ると、乳牛で起きる疾病全体のおおよそ75%が、分娩後1ヶ月以内に発生すると言われていますa。このステージの牛を失うことは、農場にとって大きな損失です。極端な例ですが、初産牛で考えてみましょう。初回分娩をするまでにかかった育成費も飼料費も授精費も飼料摂取量を増やすための費用も、全てが初産以降の乳生産量を上げるための投資です。それなのに初産牛を分娩直後に失い、肉用として販売せざるを得ない状況になった場合、この初産牛にかけた費用を全く回収することができないことから、この淘汰に経済的なメリットは1つもありません。
高泌乳農場では一般的に、疾病予防に注力し、非自主的淘汰が少ない傾向があります。即ち、このような農場では自主的淘汰が可能な牛の選択肢が多く、さらに農場成績が向上していきます。
個体の在群価値と自主的淘汰
ここまでは自主的淘汰と非自主的淘汰の基本的な部分について述べてきましたので、ここからはさらに深く、農場でどのようにして自主的淘汰を積極的に進めていくかを考えていきます。
最適な自主的淘汰の判断を行ってくれるコンピュータシステムが存在します。その多くは農場の牛たちの将来的な乳生産量を試算して、どれほどの利益を継続して農場にもたらすかで、農場内のそれぞれの牛を順位付けします。これは“在群価値(retention pay-off:RPO)”と呼ばれ、多くの牛群管理ソフトに実装されている機能ですb。
RPOは既存の牛が最適なタイミングで更新されるまでの残存価値と、この牛を保有している育成牛と入れ替えた場合の差を示しています。このモデルを用いた時に、ある牛のRPOが$0以下である場合、既存の牛を淘汰して、確実により長く農場で生産を行ってくれる育成牛と入れ替えるタイミングであることを示しています。一方、RPOの値が例えば$500である場合、既存の牛は今後も農場にとって利益を生み出し、更新してしまうと$500の損失(機会喪失)を生む可能性があることを示しています。
牛群管理の中でも移行期牛に対して、このRPOを用いる場合、乳代、肉用市場販売価格、農場毎の生産乳量、更新率などの現時点での値を入力する必要があります。入力が完了すると、その農場における各牛の現時点の価値が算出されます。それぞれの牛の価値は、月齢、前産次の乳量、将来的な見込み乳量、繁殖状況などによって変わります。
農場において自主的淘汰を行う牛の選抜と、初産牛と更新するタイミングについて最良な判断を下す上で、この残存価値を用いることが助けになります。
乳牛にとって、移行期が最もリスクが高いステージ
疾病や代謝不良などによる非自主的淘汰のリスクは移行期の間に最も高まります。分娩後、乳生産のための栄養要求量が大きく高まりますが、この乳生産を維持するだけのエネルギーを牛は摂取することができません。その結果、乳生産と出産から回復するエネルギーをまかなうために体脂肪を動員し、負のエネルギーバランスに陥ります。このステージにおける負のエネルギーバランスは必然的に起こるものであると予期されますので、いかに早く牛がこの状態から脱却できるかが管理のポイントになります。それができないと、ケトーシスや低カルシウム血症といった代謝障害が引き起こされます。
牛がこれらの代謝異常に陥ると、乳房炎や子宮炎といった感染性の疾病を併発するリスクも高まります。分娩前後において、牛は乳生産だけでなく、生理変化や環境変化への適応、さらには免疫機能の低下に対してまでも上手く対応していかなくてはなりません。これらが上手くいかないと、炎症反応を引き起こすためのエネルギーが余計に必要になりますし、より感染性の疾患に罹りやすくなり、非自主的淘汰のリスクも高まります。
免疫機能改善のためのジンプロ・ミネラル
生産性を向上させ、健康的に牛が毎日を過ごせるようにすることで、非自主的淘汰を減らすことを目標としましょう。微量ミネラルも含めてしっかりとした栄養素を給与することは、自主的淘汰にも非自主的淘汰にも多大な影響を及ぼします。
子牛にミルクを与えることが、牛という種の保存のために重要な働きです。乳牛は、体内の他の生理機能から栄養素を奪ってでも乳生産を行うことを優先します。乳生産にかけるエネルギーは膨大で、その要求量を満たすほどの飼料を牛が摂取できないこともあります。農場では、乳牛がこれらの変化や問題に対応することを助けるような管理を目標とし、疾病などが起こる前に予防し、牛を守ってあげなくてはなりません。
移行期飼料にジンプロ・ミネラルを添加する効果は広く知られています。ジンプロ・ミネラルは無機ミネラルに比べて生体内利用率に優れていることから、牛が多くの飼料を摂取することができない分娩前後においても、高泌乳を支え、生体維持や正常な免疫機能を維持するために重要な栄養素をより多く吸収することができます。
周産期の成功を確実にし、牛が分娩後最初の30〜60日までを乗り越えられる様に助けることが、非自主的淘汰を減らし、農場の潜在的な最大生産量に到達するために重要です。
移行期牛飼料へのジンプロ・ミネラル添加についての詳細は、弊社営業担当者にお問い合わせください。
出典
a LeBlanc, S.J., K. D. Lissemore, D.F. Kelton, T. F. Duffield, and K.E. Leslie. 2006. Major Advances in Disease Prevention in Dairy Cattle. J. Dairy Sci. 89:1267-1279
b D. Liang,* L. M. Arnold,† C. J. Stowe,‡ R. J. Harmon,* and J. M. Bewley*1 2017. Estimating US dairy clinical disease costs with a stochastic simulation model. J. Dairy Sci. 100:1472–1486