タンパク質の利用効率を改善したい時には、ルーメンを無視することは出来ない
Share

タンパク質の利用効率を改善したい時には、ルーメンを無視することは出来ない

ダリル・クラインシュミット博士

ジンプロコーポレーション

乳牛の最もユニークな特徴は、ルーメンの存在です。ルーメンは微生物を用いて、摂取した飼料を牛が必要とする栄養素に変えていく巨大な発酵槽です。牛は、人も含めた他の動物が活用できない食物から栄養価値を作り出して乳生産を行います。

ルーメンには非効率的な部分もありますが、単胃動物にはない長所もあります:

  • 粗飼料中の炭水化物を微生物に発酵させることで揮発性脂肪酸に変換し、エネルギー源とすることができる。
  • ルーメン内微生物はマイコトキシン(カビ毒)を無毒化し、牛への影響を低減する。
  • ルーメン内微生物はフィターゼを自ら生成するので、リンの活用率が上がる
  • ルーメン内微生物はビタミンB群の主要な供給源になるため、単胃動物と比べて牛では飼料中への添加の必要性が低い。
  • 微生物は尿素のような安価な非タンパク質性窒素を高品質な代謝性タンパク質源にすることができるために、タンパク質の添加費用が少なくなる。

このことから、疑問が生まれます。乳牛におけるタンパク質の利用効率を最大限に高めたいと考える時に、私たちはこれらの特徴的な機能をしっかりと活用できているでしょうか?近年、タンパク質栄養学の主な研究は、ほとんどがルーメンバイパス原料についてです。しかし、ルーメンに向けて正しく給与することによる利点は無視できないものです。

 

窒素効率を高めるために、ルーメンが鍵となる

乳牛が窒素を乳タンパク質に転換する能力はとても非効率的であるために、ルーメンバイパスタンパク質源が着目され続けてきました。2009年に発表されたある研究では、牛の平均窒素効率はわずか24.7%です。これは農場でいくつかの問題を生み出す原因になります。

1つ目の問題は、乳牛におけるタンパク質の利用は非効率的であるために、求める乳生産量を達成するためには、大量のタンパク質を給与しなければいけないことです。一般的な乳牛用飼料において、タンパク質は最も高価な成分である場合が多いため、飼料費の増大を抑制することが、農場で牛のタンパク質の利用効率改善を目指す理由になります。

他の問題として、タンパク質の高単位給与が環境にもたらす影響もあります。飼料中のタンパク質添加量を増やすと、尿から環境への窒素排出量も増えます。特に水源の近くや都市近郊といった地域では、法令による制限がより厳しくなり、飼料設計が難しくなることが考えられます。環境の観点からいくと、農場において窒素排出を減らすために最も効果的な方法は、飼料中のタンパク質を減らすことです。

多くの農場では高泌乳量を達成するためにルーメンバイパスタンパク質やアミノ酸に着目しがちですが、利益と環境の持続可能性の両方を高めるために最良の方法は、ルーメンに餌をあげることを最初に考えることです。

農場で生産性を高めるために、まず代謝性タンパク質を検討して、正しくアミノ酸を給与することから始めましょう。特に2つの制限アミノ酸であるリジンとメチオニンをしっかりと検討します。例として、体重680kgの2産のホルスタイン種が43kgの乳(乳脂肪3.8%、乳タンパク質3.2%)を生産している場合、この乳量を維持するためには1日3,000gの代謝性タンパク質が必要です(Van Amburgh, et al., 2015)。これほど大量の代謝性タンパク質を供給するには、牛はルーメン内で微生物態タンパク質を最大限活用することに重きを置かなくてはいけません。ルーメン内微生物に糖、でんぷん、水溶性繊維、消化性NDFを含んだエネルギー源を提供しましょう。さらに、これらのルーメン内で活用できるエネルギー源とルーメン内分解性タンパク質(RDP;アンモニア、アミノ酸、ペプチド)を併せて飼料設計を行うことで、微生物態タンパク質の活用も上がります。さらに、残りの代謝性タンパク質の不足分を、ルーメン内非分解性タンパク質(RUP)で補います。これに当たる飼料として、ルーメンバイパス処理を行なった大豆粕や蒸留粕、ルーメンバイパスアミノ酸(リジン、メチオニン)が挙げられます。

 

ルーメン効率を高めるために最適な栄養素

ルーメン内に適切な栄養素を届け、望ましいアミノ酸バランスが成されれば、微生物態タンパク質の効率を高めることができます。これは次の2点において、農場の役に立ちます:

  1. 高価なバイパスタンパク質を多量に添加する必要性が下がるので、農場の利益性の改善に繋がる可能性がある。
  2. 体内で活用されず無駄になったタンパク質の環境への排出量が減ることで、農場の持続可能性が高まる。

ご質問、ご相談及び本記事内にある試験の出典となる論文が必要であれば、弊社営業担当者までお問い合わせ下さい。

 

関連記事
乳量と繁殖成績向上のための移行期牛管理のポイント
乳牛の移行期管理を成功させる栄養に関する5つのポイント