世界の水産業界の展望:荒波に揉まれながらも成功の好機を掴む
新型コロナウイルス感染症大流行やそれに伴う余波の影響は水産業界に波乱や物流障害、市場の混乱をもたらしました。この様な状況にも関わらず、この期間の間水産業界は一丸となって高い回復力と調整力で耐えながら立ち向かっていきました。
ジンプロはオランダのラボバンクからゴージャン・ニコリック氏を招聘し、2023年の業界の見通しに関するウェブセミナーを今年2月に開催しました。セミナーでニコリック氏は、サーモンやエビ、ティラピア、パンガシウスなどの主要魚種に関してより包括的に理解するために、水産業界の最新情報及び今後のトレンドに関して説明されました。そして本記事では、セミナーで説明された主な課題や好機、そして今後に活かせるキーアクションを要約してご紹介します。
水産業界における課題、好機、重要点
サーモン
課題:サーモンの供給は、2022年に0.9%減少しており、2023年も引き続き厳しい状態が続く見込みです。その他の主な課題は以下の通りです。
世界の生産量のうち51%を占める大生産地であるノルウェーは今、成長を妨げる大きな課題に直面しています。その問題とは、水温の低下による養殖魚の成長抑制や政府による新たな税制の導入などがあります。そしてその結果、業界の収益性に悪影響が生じ、新規のプロジェクトや投資が頓挫してしまいます。
また、世界で4番目の生産量を誇るカナダでも、制限規制による問題に直面しています。その他にも、高騰したエネルギー価格や建設費によって陸上サーモン養殖プロジェクトの進捗が遅れ、将来的な市場への大量供給が出来なくなりました。更に、飼料価格は2023年にピークを迎えるとの見通しもあり、過去10年間で75%も増大した生産コストを更に圧迫することになります。
好機:これらの課題がある中で、2023年の生産は0〜2%成長する見込みです。また、サーモンの需要は高いままながらも生産量は逼迫していることから、価格はやく7.5USD/kgと高い水準で維持されるでしょう。
世界で2番目の生産量を誇るチリでは放流量が増えたため、近々良いニュースが舞い込んでくることでしょう。そして、ノルウェーとカナダの複雑な状況を踏まえて、他の生産国はこの機会に新規投資を誘致し、シェアを獲得しようと取り組むかもしれません。
重要点:ノルウェーでは課税回避のために漁獲量の増加や新規プロジェクトの中止や延期などの短期的なネガティブな影響も見られましたが、新しい税制度が導入されることで、新たな解決策や技術を開発するきっかけになるかもしれません。
また、沖合や陸上養殖方法の最適化などの代替案も選択肢になり得ますが、影響が出るまでは数年は掛かるでしょう。一方で、環境の課題が発生する可能性もありますので、業界は気を引き締めながら、飼料効率を向上させ、魚の健康、成長をサポートする解決策を模索する必要があるでしょう
エビ
課題:2022年初めは高価格と好需要に恵まれましたが、下半期から劇的な低下に苦しめられました。また、以下のその他の課題にも苦しめられました。
アメリカとEU市場で2022年の第3四半期から負の成長率となりましたが、中国での急速に成長がそれを補い、主にエクアドルがその恩恵を受けました。2023年もその成長はプラスとなる見通しです。しかし、業界全体でみると市場価格の低下やコストの増加といった直面する課題が増えていくため、見直しが行われるでしょう。
インドは、アメリカ市場への依存や限られた国内消費量、生産や競合に関する課題によって、2021年からの回復速度を維持することは出来ませんでした。
インドネシアも同様にエビ生産の70%をアメリカに輸出しており、それが縮小する可能性もあるため先行きは不透明のままです。
2020年から飼料コストは30%増加し、更にエネルギーコストも増加が予想されます。そのため、エビ市場は縮小し収益性が低下する可能性があります。この様な要因が重なると、供給が減少してしまうことに繋がりかねません。また、エビの生産サイクルは短いため、生産者は次のサイクルで育てるエビの量をすぐに減らすことが可能であり、その結果供給における短期〜中期の影響が出る可能性があります。
好機:成長予測は約3%とされていますが、他のタンパク質源と比較しても安価であるエビの市場価格が下がることで需要が高まれば好機になるでしょう。長期的な視点で考えてみると、エビ業界は、4%の年間成長率を達成出来るポテンシャルを持っており、2030年には7百万トンにも到達する可能性があります。
重要点:サーモンの場合と異なり、エビの市場価格は高い製品の利用可能性と需要の低迷によって急激に低下することが予想されます。この状況は利幅を小さくします。そして、生産者はこの影響を緩和し、影響からの回復力を高めるためにより効率的な生産を行わなければならないでしょう。
ティラピア及びバンガシウス
課題:2020年にティラピアの生産量は減少しましたが、それ以来徐々に回復傾向にあります。その中でのティラピア業界における課題は以下の通りです。
2010年から2020年にかけてティラピア業界では年間成長率5.6%を維持してきましたが、それ以降3〜5%に低下しました。中国の生産量は比較的横ばいで、1%を下回る成長となっています。
インドネシアは好調ですが、5%を下回っています。
エジプトは国内消費を重視しており、2020年に急激に減少しましたが、復調し5%の成長率となっています。
生産面では安定して成長していますが、貿易面では非常に変動が激しくなっています。10年前中国はティラピアを主にアメリカ市場に輸出していましたが、現在ではメキシコへと切り替え、EUとアメリカでのシェアを回復しています。貿易額は上下に変動していましたが、過去3年間で回復傾向が見られています。パンガシウスは、貿易面でティラピアの主な競合品で、金額は2倍以上の差があります。
ベトナムは最大のパンガシウス生産及び輸出国ですが、過去数年間で様々課題に直面しています。当初はEU及びアメリカ市場を中心に輸出していましたが、その後南米市場を開拓し、そして中国へと切り替え、現在ではベトナムの生産量の40%を中国に輸出しています。そして、2021年のアメリカにおけるパンガシウス冷凍フィレ肉輸入量はティラピア冷凍フィレ肉を上回りました。
好機:バングラディシュやベトナムの様な新興市場では、2桁の成長率を達成していますが、未だ世界の生産量において大きな影響を与えるまでには至っていません。
中南米ではブラジルとコロンビアは主なティラピア生産国であり、特にブラジルは国内消費及び一貫生産システムが盛んになったことにより、統合が進んでいます。サーモンやエビと異なり、ティラピアは国内市場を統合することで成長は緩やかですが、輸出がメインの他魚種と比較してより安定していると言えます。
重要点:パンガギウスが白身魚の輸出を牽引し続ける一方で、ティラピアは拡大と成長を続けると見込まれます。この成長は主に、世界中の国内消費によって支えられていますが、ティラピア生産者は特に生フィレ肉といった高価値のニッチな商品の生産に取り組もうとするでしょう。貿易量と貿易額は急激に上下することなく、過去10年間の傾向のまま推移すると予測されます。
Q&Aセッション
セミナーの最後にはQ&Aセッションがあり、多くの質問があり、より深く理解する事が出来ました。ここからは、その質問の中から、重要でかつ洞察に富んだ回答をいくつか抜粋してご紹介します。
景気後退によってエビ、サーモン業界はどの様な影響を受けますか?
アメリカ及びEUの景気後退はサーモンよりもエビの価格に影響を与える可能性があります。2022年下半期に消費者のエビの消費は減少しましたが、2023年には好転すると予測されています。サーモンの消費は1年を通して高く、供給は逼迫するでしょう。
閉鎖型循環式陸上養殖(RAS)が世界のサーモン生産に大きな影響をもたらす様になるのはいつ頃になるでしょうか?またそれはノルウェーでも取り入れられるでしょうか?
このプロジェクトが成功し、市場に大きな影響を与える様になるタイミングを予測するのは難しいのが現状です。現実的なシナリオだと、私は2020年代の後半になると予測しています。完全RAS生産施設は、まずはアメリカや中国、日本といった消費者に近い国で開発が進むと考えられます。
ノルウェーでは、新しい税制がどの様に広まるか次第ですが、流水式システムが増加していく可能性があります。また、現在始動中のプロジェクトは2022年に主にエネルギー及び建設費用の増大に関連した課題に苦しみました。
何故2023年のサーモン生産量が特にノルウェーで減少すると見込まれているのでしょうか?
2022年に低水温が魚の成長に悪影響を及ぼし、その結果養殖魚数が減少しました。サーモンは2年の生産サイクルのため、この影響は次の年にも影響します。その他の要因として、2023年に施行される新しい税制の影響を避けるために、2022年後半に漁獲量が増加した事が挙げられます。
もし、エクアドルから中国へのエビ輸出が停滞した場合、エクアドルにとって最も魅力的な代替品は何でしょうか?
冷凍エビは世界的な貿易品ですので、エクアドルはアメリカやその他の市場への輸出が可能なはずです。しかし、エクアドルにとって他の市場規模は中国には及びません。
エビの輸出市場は主に量と価格に左右されるのでしょうか?それとも認証や品質が重要なのでしょうか?
全てが重要です。しかし、今のところエビは比較的差別化がされていないのが現状です。そのためバイヤーは価格を最も重視し、その次に大きさ、色を重視します。また、認証はEU及びアメリカ市場においては必要です。
新規の代替飼料原料は飼料コスト削減に役立つでしょうか?
昆虫飼料や単細胞タンパク質等の新規飼料原料は、飼料会社向けの大きな量で利用するにまだ至っていません。更に、これらの飼料原料は他のタンパク源と比較して、費用が変わらないか上昇するであろうと予測されます。従って、配合飼料の費用を削減することは難しいと考えられます。
成功を得るためにジンプロと協働する
収益を横に置いて、どの様に養殖業を成功させるかが今後の課題となるでしょう。そして、この課題が重要分野を改善し、新しい技術や管理方法を確立し、栄養状態を向上させるための新たな機会をもたらしてくれるでしょう。またその他にも、環境状態や疾病に関連するリスクや業界が意欲的に取り組んでいる持続可能性目標に関しても無視してはいけないでしょう。
この複雑な状況を乗り越えるためには、情報を最適化し、リスクを軽減し、収益を守ることを可能にする適切な技術に投資を行う高い経営判断が必要となります。適切なパートナーと協働することでこれらの障害に直面した際に克服出来るという自信を深められるでしょう。ジンプロと弊社のチームは業界のキープレーヤーと協働し、ジンプロ・ミネラルや革新的なツール、比類の無い解決策を用いて栄養戦略を改善することで、健康福祉上の問題や飼料効率の改善、生産量の増加、製品品質などの課題に取り組んでいます。私たちは協働することで、皆様が生産性向上のために細かく調整するお手伝いを致します。
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