乳房炎と高体細胞数が、グルコースを奪う
農場で体細胞数が上がっていくことは珍しいことではありません。体細胞数は、乳牛の生産性と乳質を見る指標です。乳房炎は乳腺の炎症で、この炎症に対応するために乳腺に集った免疫細胞が、体細胞数増加の原因です。
以前の記事で、乳腺で発生する炎症はどの様なものでも生産性と乳質を低下させることを解説しました。そして、その影響は生産性だけに止まらず、繁殖成績の低下や跛行の増加も招いてしまいます。
乳牛において、特に乾乳期と泌乳初期は乳房炎対策の重要性が最も高まる期間です。泌乳初期は牛が負のエネルギーバランスに陥っている状態であり、生産活動以外に栄養が奪われることが大きな原因とになります。
一般的に分娩前21日では、1日の要求量が1,000gのところ、牛は1日に1,700gのグルコースの供給を受けています。しかし、分娩後3週間までの間は、要求量が1日2,500gに対して、2,000gの供給しか受けません。ここに乳房炎や跛行といった炎症反応が加わると、栄養素であるグルコースが奪われ、牛はさらに体脂肪動員を進め、乳量が次第に落ちていくでしょう。
これは、炎症反応が推移する中で対応するために集まった、特に好中球を中心とする免疫細胞が、大量のグルコースを活動のために消費する事が主な原因です。牛は1日に最大で2,000gものグルコースを、上皮組織の修復などといった炎症反応のために用いるとされています。グルコースの消費だけでなく、リンパ球はアミノ酸を栄養源として用いるために、タンパク質欠乏に陥る可能性もあります。
体細胞数の増加は乳量を低下させる
乳業工場やスーパーマーケットが定める体細胞数100,000個/ml程度の基準よりもずっと低い場合でも、乳生産に影響を与えるとされています。ジョージア大学畜産学部のステファン・ニッカーソン博士は、体細胞数100,000個/mlで、およそ3%乳量が減少すると発表しました。体細胞数1,000,000個/mlの場合は、12%乳量が減少するだけでなく、販売することが出来ない生乳を生産していることになります。
乳生産の過程には2つの重要なポイントがあります、それは乳細胞の数と乳細胞の活動です。乳細胞を更新していくだけの十分な栄養を摂取出来ず、乳細胞数が減少した場合、乳生産のために必要な容量が不足している状態となります。さらに、これらの細胞から免疫反応のためにグルコースが奪われると、生乳の浸透圧を調整するラクトースの生成が阻害され、乳細胞の活動も抑制されて乳量が更に減少することになります。
この炎症が更に重篤化すると、乳腺における上皮組織も損傷を受け、壊れていきます。そうすると、牛はすでに合成していたラクトースを血流内に再吸収してしまいます。このラクトースは体の別の組織で使われることはなく、合成に用いた栄養も含めて単純に損をしている状態となります。
乳房炎と跛行が繁殖成績を低下させる
乳房炎と高体細胞数は最終的に繁殖成績を低下させます。乳腺内の細胞と同じく、生殖器における細胞と卵巣内の卵胞もグルコース消費が大きいことが分かっています。繁殖活動は、乳牛において栄養活用にとっての優先順位が低く、高体細胞数は繁殖成績を低下させてしまいます。
栄養要求量の大きな事象である高体細胞数と跛行が合わさると、繁殖成績にどの様な影響を及ぼすかを調べた興味深い試験が2009年に行われました。破行していない健康な牛の約90%で排卵が起こって授精可能となり、良好な繁殖成績を示しました。一方で跛行牛では排卵した牛が75%まで減りました。跛行して高体細胞数の牛では、たった44%の牛しか排卵しませんでした。ストレスや炎症が起きている時、乳腺と蹄は大きくグルコースを消費することが判明していることから、この試験ではこれらのストレス要因が組み合わさって栄養素を奪っていき、生産性(この場合は繁殖成績)を低下させたことを正しく示しています。
亜鉛による乳腺における炎症のコントロール
乳腺の健康状態、跛行管理、繁殖成績の向上のために、亜鉛が非常に重要です。乳牛の乳房炎対策のポイントについては、以前の記事をご覧下さい。さらに、ジンプロ社の硫酸亜鉛メチオニンの給与により、体細胞数の減少と、乳腺の上皮組織の強化による生乳から血漿へのラクトースの再吸収を抑える効果が、研究から判明しています。
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